事業者が、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産(※1)の仕入れ等を行った場合には、当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度の適用及び簡易課税制度を選択して申告することができません。
※1 「高額特定資産」とは、一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜金額)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。
免税事業者から課税事業者となる日の前日の事業年度において、高額特定資産となる棚卸資産を購入した場合において、その棚卸資産につき課税事業者になった日の属する課税期間において仕入税額控除の対象として計算することができます。
スキームは下記の通りです。
【1】事業者免税点制度の適用を受ける事業者が(翌期は課税事業者となる事業者に限る)高額特定資産(棚卸資産として年度末まで保有している場合に限る)11,000,000円(うち消費税1,000,000円)を購入する。
【2】翌事業年度において原則課税により消費税を計算します。棚卸資産の調整措置(※2)により前期に購入した高額特定資産である棚卸資産につき、仕入税額控除1,000,000円を受ける。売上高は0円とします。そのため1,000,000円の消費税の還付を受けることとなります。
※2 「棚卸資産の調整措置」とは、課税事業者となる日の前日に、免税事業者であった期間の棚卸資産を有している場合、その棚卸資産の課税仕入れに係る消費税額を、課税事業者となった課税期間の課税仕入れとみなして仕入税額控除を計算する制度です。
【3】【2】の翌事業年度において簡易課税の適用を受けるため、【2】の期間に消費税簡易課税制度選択届出書を提出する。
簡易課税の適用を受ける課税期間において、当該棚卸資産を16,500,000円(うち消費税1,500,000円)で売却する。簡易課税の適用を受けるため、仕入税額控除は1,500,000円×80%=1,200,000円(簡易課税の業種区分は第二種で計算しています)となり、差額の300,000円を納付することとなります。
【4】結果
消費税額 | |
1年目 | 0円(免税事業者のため) |
2年目 | 1,000,000円(還付) |
3年目 | 300,000円(納付) |
1~3年目の合計 | 700,000円(還付) |
現行制度では事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合しか対応していないため、棚卸資産等の調整により納税者に有利な抜け道ができていました。
そこで、上記抜け道を是正するため、下記の制限が追加されました。
事業者が、高額特定資産である棚卸資産等につき、棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合には、その適用を受けた課税期間の翌課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間について免税事業者に戻ることができない及び3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は『消費税簡易課税制度選択届出書』を提出することができないことになりました。調整対象自己建設高額資産(※3)についても同様の扱いになります。
※3 「調整対象自己建設高額資産」とは、他の者との契約に基づき、又は事業者の棚卸資産として自ら建設等をした棚卸資産でその建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額(税抜額)の累計額が1,000万円以上となるものをいいます。
先ほどのスキームに当てはめると下記のようになります。
【1】免税事業者(翌期は課税事業者となる事業者に限る)となる事業年度において高額特定資産(棚卸資産として年度末まで保有している場合に限る)11,000,000円(うち消費税1,000,000円)を購入する。
【2】翌事業年度において原則課税により消費税を計算します。棚卸資産の調整等により前期に購入した高額特定資産である棚卸資産につき、仕入税額控除1,000,000円を受ける。売上高は0円とします。そのため1,000,000円の消費税の還付を受けることとなります。
⇒ここまでは従前と同様になります。
【3】【2】の翌事業年度において簡易課税の適用を受けるため、【2】の期間に消費税簡易課税制度選択届出書を提出する。⇒ここが不可能になります。
そのため、原則課税により消費税計算を行います。その棚卸資産を16,500,000円(消費税1,500,000円)で売却する。仕入税額控除は【2】の期間で行っているため、仕入税額控除は0円となり、差額の1,500,000円を納付することとなります。
【4】結果
消費税額 | |
1年目 | 0円(免税事業者のため) |
2年目 | 1,000,000円(還付) |
3年目 | 1,500,000円(納付) |
1~3年目の合計 | 500,000円(納付) |
令和2年4月1日以後に棚卸資産の調整措置の適用を受けることとなった課税期間から適用されます。
事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に、高額特定資産を購入した際、又は高額特定資産について棚卸資産の調整措置を受けた場合は、3年間事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることはできないので気を付ける必要があります。
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